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担当:常葉大学社会環境学部 田中 聡
2016年5月17日作成
今回の熊本地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。
常葉大学附属社会災害研究センターでは、これまでり災証明書発行のための建物被害認定調査に関する研究や被災自治体の支援をおこなってきました。
この建物被害認定調査は、内閣府が定めたガイドライン「災害に係る住家の被害認定運用指針」に則って原則として自治体職員による調査になりますが、 大規模災害の際には、調査が終了するまで多くの時間がかかります。
調査が入る前に自宅を片付けや補修する方は、片付ける前に写真などの記録をとるように自治体では勧めていますが、 具体的に建物のどこをどのように記録すればよいのか示されていません。
このトリセツでは、り災証明書を取得するために、ご自身でできる建物被害状況の記録の残し方について説明します。
り災証明書のための建物被害認定調査は、建物全体の損傷程度を評価するものです。
建物全体の評価とは、建物を 1)傾き、2)屋根、3)外壁、4)基礎、5)柱、6)内壁、7)天井、8)床、9)建具、10)設備 の10つの部位に分けて、 それぞれ部位ごとに損傷程度を調査し、最後に全体を足し合わせて評価します。
具体的な評価はそれぞれの部位の損傷程度を点数化して最後に合計しますが、この点数化は複雑なので専門の自治体職員にまかせましょう。
みなさんは、それぞれの建物部位のどこにどのような被害が発生したのかを、できるだけ正確に記録しましょう。
熊本地震では余震が多く発生しており、不用意に損傷した建物に近づくことは大変危険です。応急危険度判定調査が終了しているお宅は、その張り紙をよく見てください。
特に赤(危険)や黄色(要注意)の方は、その内容をよく読んでください。緑(調査済)の方も一応作業は可能ですが、 余震による家具の転倒なども考えられますので、十分注意してください。
写真 倒壊した建物
この写真のように建物の倒壊状況がわかる写真を違う角度から数枚撮影してください。
調査はここで終了です。判定は全壊です。
1)傾き、2)屋根、3)外壁、4)基礎 の4つの部位は建物の外側から調査します。
建物の平面図(見取り図)を作成します。設計図面がある方はそのコピーを使って、ない方は図のように手書きで作成してください。 なるべくていねいに作図すると後の調査に便利です。
作図した平面図の例
傾斜の測定方法は図のように、120cmのひもにおもりをつるして、傾いた距離(d cm)を測ります。
理想は建物四隅(4カ所)それぞれで壁に対して垂直な2方向の傾いた距離を測るのが好ましいですが、無理ならばできる範囲で結構です。 建物全体の傾きなので、柱や壁があるところで測りましょう。
傾斜の測定方法
次に建物の1階の平面図に傾斜を測定した場所と方向、数値を記入します。
傾斜の平均値を計算し、6cm以上の場合は、調査はここで終了です。
判定は全壊です。
傾斜の測定方法
屋根の被害は、屋根を真上から見た図面を作成し、瓦のずれや屋根の損壊状況を記入してください。 屋根の被害が見えない場合は、ある程度想像で結構です。
さらに見える範囲内で写真を撮影し、撮影した場所を図面に記入してください。
屋根の被害の作図例
外壁の被害は、建物の四面について(できればそれぞれ正面から)写真を撮影します。
写真でわかりにくい被害は、被害部分を拡大した写真も撮影し、スマホで撮影する場合には、 被害が発生した場所を写真に書き込んでおくと、後で位置関係がわかりやすくなります。
基礎に亀裂や破壊がある場合は、その場所を図面に×印で記入し、写真を撮影します。
スマホで撮影された場合には、図のように被害が発生した場所を書き込むとよりわかりやすくなります。
「災害に係る柔化の被害認定基準運用指針 参考資料(損傷程度の例示)」より
5)柱、6)内壁、7)天井、8)床、9)建具、10)設備 は、建物の中に入って調査します。
応急危険度判定で赤(危険)や黄色(要注意)の方は、内容によっては建物内に入るのは危険ですので、十分に注意してください。
これらの被害は、平面図に被害の発生場所を書き込みます。それぞれの部位を異なるマーカーで記入するとわかりやすくなります。
たとえば以下のような凡例を使うといいでしょう。 被害が発生している部分の長さや面積は被害の評価に重要ですので、できるだけ正確に記入しましょう。
完成した被害図面の例
建具とは、建物に作り付けのもの、たとえば窓、扉、障子のことです。 後から設置した家具、たとえばタンス、食器棚、本立てなどは建具に入りません。
設備とは、建物に作り付けの設備、たとえば、風呂、トイレ、台所の流し、洗面台などのことです。
さらにそれぞれの被害をスマホで写真を撮影し、写真に被害の状況を書き込んでおくといいでしょう。 被害部分の拡大写真だけではなく、被害が発生している部位の全体像がわかるような写真が重要です。
以上で建物被害認定調査は終了ですが、余震によって新たに被害が発生した場合には、被害を追加してください。
これだけの記録を残すことは、はじめての人にとっては大変な作業かもしれません。 しかしこれらの記録は、り災証明書を取得するための重要な証拠となりますので、できるだけていねいに実施することが、 後々のさまざまなトラブルの防止に役立ちます。
り災証明書の判定は、これから生活再建のためのさまざまな支援を受ける上で重要な基準となります。 何度も再調査を繰り返すことなく、スムーズに生活再建を進めるためには、みなさんの調査結果に対する理解と納得が必要です。 そのためにこのトリセツがお役にたてば幸いです。
みなさまの一日も早い再建と熊本の復興をお祈りいたします。